「お、いた」
「へ、平助さん…なにやってるの?」
廊下を戻っていくとふらりふらりと平助さんが歩いていて私の顔を見るとへらっと笑った。が、まだ怪我が完治していないというのに何をしているんだこの人は。
「なにって…あ、これお前のだろ?」
「あ、うん…ありがとう」
平助さんが渡してくれたのは私が探しに行こうとしていた扇子だった。去年の夏原田さんがくれたものだ。
「ってだからそうじゃなくて、なに部屋からでてるの!」
「暇だしさー、なんもすることねぇし。つーか椿も怪我したんだろ?大丈夫か?」
「私のはもう塞がってるし動かせるから大丈夫だよ。けど平助さんはまだいつ傷が開くかわからないんだから歩き回らないで!」
「えー…」
起きたばかりなのか気の抜けた声で抗議されたが私はぐいぐいと平助さんの背中を押して部屋へとつれて行った。
「わかった、わかったから。じゃあちょっと話でも付き合ってくれよ」
「うん、いいよ」
「ありがとな。で、池田屋での被害ってどうだったんだ?俺見えてなかったし屯所戻ってくる途中で意識ぶっ飛んだからわかんなくってさ」
自分も怪我しているのに…いやしているからこそか、幹部としての自覚を持って隊士たちを気に掛ける優しさに素直に感心した。
「死亡者は一名、奥沢栄助。怪我人は裏口にいた安藤と新田それと平助さん、永倉さん。永倉さんは左手の親指の付け根を怪我してたけど傷はもう少ししたら塞がると思う。あと、沖田さんが戦闘中昏倒したけど今は意識も戻って安定してるみたいだよ」
「そっか…あいつら隊務を全うしたんだな。新八と総司は大丈夫そうでよかったぜ」
こくり、と頷くしかなかった。
「んな顔すんなって、お前はよく頑張ったよ。おかげで俺も死なずにすんだんだ」
「でも…」
「俺もさ人に言えるような立場じゃねぇけど、新選組にいるんだ。これからきっともっと死んでく仲間を見ないといけねぇんだと思う。そのたびにそう落ち込んでらんねぇし、前見るしかねぇだろ?」
「そう、だね。…私、前向くためにやらないといけないことみつけたよ」
「おぉそっか。ま、ありがとな、それとまた時間あったら来てくれよ」
「うん!じゃあね」
平助さんに言われてはっとさせられた。
そうだ、私は前を見なければならない。
そして自分にできることをやっていかなければならない。