「ごめん…痛かったよね」
「もう大丈夫ですよ。このくらいの傷どうってことないです」
「でも跡に残るような傷だ…君は女の子なのに…」
彼のふせ気味のまつ毛と私のことを女の子だという言葉にまるで島原で告白された時のようだと私は他人事のように思った。
「こんなに腕を出すこともそうそうないですし大丈夫ですよ。心配しないでください」
「心配させてよ。俺も君のこと大切に思ってるんだから」
先ほどの言葉をまさか返されるとは思ってなくて何も言えないでいると沖田さんがいつものにやにやとした表情を浮かべた。
「どうしたの?もしかして惚れちゃいそうになった?」
「…もう」
ほどかれたさらしを巻き直そうとすると沖田さんにとられてしまって首を傾げた。
「俺が巻いてあげる。この位置だと自分では巻きにくいでしょ?」
「ありがとうございます…」
するすると器用に巻き付けていく沖田さんの手がかすかに震えていることに気付いて私は目を閉じた。巻き終わったことがわかったと同時にさらしの上から傷に何かを押し当てらたことにびっくりして目を開ける。
「お、沖田さんっ!?」
「跡にならないようにおまじない」
「お、おまじないって…~っ、失礼します!」
どたばたと音を立てながら沖田さんの部屋から出て自分の部屋に入るとへなへなと座り込んだ。
傷にキスするなんて…と熱くなった顔をぱたぱたと手で仰いだ。
「…あれ?」
懐を探っていつも入れていたはずの物がなくなっていることに気付いた。今走ってきたときに落としたのだろうか…。この後平助さんのところにも行こうと思っていたがとにかく今来た道を戻っていこうと重い腰を上げた。