「声をかけたが起きそうになかったから運んでいたのだが…腕の具合はどうだ?」
「少し痛みますけど大丈夫です。それより町の人たちの視線のほうが痛くないですか?」
「ああ…。彼らは長州贔屓であることに加えて俺たちはいまこのような返り血だらけだからな」
元々好いてはいないような人たちが全身返り血まみれで自分たちの町を歩いていたらそりゃ嫌か…。
「腕、」
「はい?」
「先ほどからずっと押さえているだろう、帰ったら巻き直してやる」
「ありがとうございます」
「それと、平助と総司のところに一番に駆けつけて処置をしてくれたそうだな。俺からも礼を言っておく」
「そんな…一隊士として当然のことじゃないですか」
「それでも保身に走って救護にまわりたがらない奴もいる。戦いの場では自分のことしか見れなくなる奴が多いからな」
たしかに普通に刀を交えているのも危険だが救護にまわっているほうが危険だといえるかもしれない。人をかばいながら戦場にいるというのは想像以上に気も体力も使う。
「私はただ、無我夢中で…」
そう、無我夢中で人を殺した。
あの時と同じようにぞくりとして小さく震える。
人を斬る感覚を覚えてしまった。あの肉を割く感触も突き出す感触も手が覚えている。
頭の中で再生される断末魔、血の海…
これが幕末。動乱の世。
「東條、大丈夫か」
「っ…すみません、少しぼーっとしてました」
あれだけの人を殺したのにここで平然と生きている自分が怖かった。私と彼らの何が違ったのだろうか。自分の信じたものを貫こうとしていただけなのは私も彼らも同じはずだ。…なんて考えたって仕方ないのに私には歴史を変える資格も勇気も度胸もないんだ。だったらここで迷いだけは捨てて行こう。迷っていたらきっと殺される。そういう世界に来てしまった。もう後戻りもできない。
ただ覚悟をもって新選組のみんなとともに在れることに誇りをもって進んでいこう。