表がふさがれているとわかれば裏に来る。
沖田さんの言った通りどんどん足音が近づいてくる。
「くそっ!こっちもか!!」
「逃がしませんよ」
大きく舌打ちした男に刀を向けると勢いよく刀で男の左胸を突いた。思ったより血は噴出さなかった。ただ男の着物が赤く染まっていって、足をかけて刀を抜くと男は力なく倒れていった。
気持ち悪い肉を割く感触が刀を通して掌に伝わったとき、私は自分が狂っているように思えた。
男が倒れてああ、死んだのかと思うより先に私はまた違う男めがけて斬りつける。感情より先に身体が動く。何も相手に感じるものはない。ただ手に伝わる肉の感触が気持ち悪くて顔や手や着物にべっとりついた返り血が気持ち悪くてそれを振り切るように手の中で刀をあやつる。毎日の稽古や監察方としての仕事で自然と身についた観察眼と動体視力、その二つは意識せずとも働いてくれて敵が刀を振り下ろすより先に文字通り相手の隙を突く。
口元についた血を肩で拭うとうめき声が耳に響いた。その声の主は浅葱色の羽織を赤く染めていて地面に倒れこんでいた。そしてその隊士の向こう側に走っていく数人の男たちが見えて奥歯を噛んだ。
「っ!!」
地面にうつった影が私の陰に刀をおろそうとしていて振り向いても影とは何も変わらない景色しか目にとびこんでこなくて思わず目をつむった。
こわいっ……殺されるっ…!
ざしゅっ…と刀が肉を貫いた音が聞こえる。
けど痛みはない。ただ温かい血が私の頬にべっとりとついたのがわかっておそるおそる目を開けた。