「無事だったか…よかった」
「捕まったのかとひやひやしたぜ」
「すみません…でも池田屋二階で会合が開かれているとこは間違いないようです。店主には断られましたし、一周してみたところ長州訛りの声がかすかですが聞こえてきましたから」
「そうか、ありがとう椿くん」
「いえ」
戻ってみるとやはり遅かったことを心配されていて申し訳なくなりながらも報告した。
桂のことを言わなかったのはなにか後ろめたいことがあるわけではなくて、今ここで報告してもこれ以上ほかのことに人を割くわけにもいかないし、混乱を招いてしまわないようにだ。
「そういえば役人たちは…」
「まだきてないよ」
「っつうか来ねぇんじゃねぇのか?長州の奴らがどっちにいるのかははっきりしてなかったんだしよ」
「でもこの人数じゃ…」
「一応伝令は出したがいつ頃ここに着くか…」
「でもこうやってもたもたしてたら逃げられるかもしれないですよ?」
「…沖田さん」
不敵に笑う沖田さんの首筋にはいくつもの汗の玉が浮き出てきていた。それも仕方ない今は夏も近い6月であって盆地の京は熱のこもりやすい土地なのだ。
「…已むを得まい、突入する」
「近藤さんっ!?この数でですか!?!」
「突入するのは俺、総司、永倉くん、平助だけだ。残りの者は表と裏の出入口をかためてくれ」
「へぇ…おもしろそうじゃないですか」
「平助、死に急ぐなよ?」
「新八には言われたくねぇよ!」
汗が冷や汗になっていくほどの殺気が四人を包んでいて私はぞくりと身体を震わせた。
「トシ達の隊が到着して余裕が出たら捕縛に変更していく。そうなったら君たちも突入してくれ」
近藤さんの指示に私たちはしっかりと頷く。
本当なら中に入って怪我をするとわかっている人のそばにいたいけど邪魔になってしまうだろうしこれ以上迷惑もかけられない。
はやく土方さん達の隊が到着することを祈りつつ残った私たちは二手に分かれた。私を含める四名は裏口へ回る。刀を抜いたところで表のほうから近藤さんの大きな声が聞こえてきた。
「会津中将殿御預かり新選組詮議のため宿内を改める!手向かいすれば容赦なく切り捨てる!!」
討ち入りするところに大声で宣言するなんてなんとも近藤さんらしいと苦笑をこぼしながらかすかに震える手で刀を握りなおした。