行くぞ、という声とともに近藤さん率いる私たち池田屋班は夜の闇に溶けて行った。
池田屋の前の建物まで来ると陰に隠れて様子をうかがう。すると新選組の読みとは違い二階で会合が行われているように見えた。
「しかし長州の者たちだという確信は持てぬ…違っていたら四国屋に向かうのが遅れるだけでなく会津藩にも面目が立たん…」
もどかしげに悩む近藤さんにむかって私は少しだけ手を挙げた。
「私が宿の主人に話しかけてきます」
「なにいってんだよ、椿!」
「そうだ、もし長州の者たちがいなかったとしても店主が長州贔屓なのは今までの会合からして確かなんだぞ?」
「もちろんわかっています。なので目立たないようにこの羽織は一度脱ぎただの旅人という形で宿が空いているか尋ねてみます」
「もし中に長州の者がいたら断ってくるはず…ってことだよね?」
沖田さんの言葉に頷いて羽織を脱ぐと立ち上がった。
「それに私みたいな女顔の者になら警戒する人も少ないでしょう?」
少ない、というのは無なわけではない。
…落ち着け、手も足も震えるな。
店主が出てきても見えないところに移動してもらい私はなにかと言い渋るみんなに背を向け木でできた戸をたたいた。
「すみません」
少しすると戸が開き店主が出てきた。
「私、父を探して旅している者なのですが、もう日も暮れてきたので宿を探していて…」
「ああ…悪いねぇ、今夜はもう部屋は空いていないんだよ…」
「そうですか…ありがとうございます。ほかを探してみますね」
軽く頭を下げて店主が中に入っていったのを確認すると建物の周りをぐるっと一周してみた。二階の部屋はすべて明かりがついていて、かすかにだが長州訛りの言葉も聞こえてくる。
もう少し声を潜めるとか考えないのかなんでどうでもいいことを考えつつ戻ろうとすると裏口の戸が開く音がしてとっさに木の陰に隠れた。