「池田屋には十名向かわせる。近藤さん、総司、東條それから新八と平助も向かえ。あとの六名は自分達の信頼できる奴らを引っ張って行ってくれ。残りの奴らは俺と四国屋だ。本命が分かり次第伝令を出せ。もし池田屋だったらすぐに向かう」
おぉっという男臭い声が響くとそれぞれ準備に向かっていった。近藤さん達は何名かに声をかけていてかけられた人達は緊張した様子ながらも局長や組長たちに選ばれた嬉しさからか笑顔が見えた。
私も準備に向かおうとしてふと周りを見渡すと違和感に包まれる。
「なんか…人が少なくなっているような…」
いつも屯所内や道場で見かける隊士たちの数と比べると少ないように感じる。
「ま、実際少なくなってるからな」
「えっ?どういうことですか?」
独り言に返された返事のほうをみると原田さんがいて私は首を傾げた。
「そのまんまだよ、こうしたでっけェ捕り物の前はびびっちまって逃げ出す奴らもいるのさ。情けねェことにな」
「で、でも人が少なくなったら残っている人たちはもっと危険になってしまうんじゃ…いいんですか?黙認で…」
「そうだなァ…本当だったら人手不足で死んじまうかもしんねェ部下たちのためにも引きとめてェけどな」
だったら、と私が口を開くより先に原田さんは続けた。
「でもよ、戦いの場ってェのは一瞬の迷いで死ぬことだってあるんだ。それをかばおうとした仲間まで危険にさらす可能性だってある」
原田さんはさっきまでへらへらしていたのに急に真剣な目をするから私は息を詰まらせた。
「迷ってるやつかばって死んでく部下見るのも嫌だからな。それだったら減った隊士の分俺が動いてやるさ」
「…わ、私も頑張ります。減ってしまった人の分を補うことはできないかもしれないけど、新選組の役に立てるように、近藤さん達の足を引っ張らないように」
原田さんは一瞬切なげに目を細めると私の頭をくしゃくしゃとなでてから自室へともどていった。
きっと、何とも言えない気持ちなのだと思う。彼は優しい人だから。新選組にいて迷いを持つなというのは死なないようにという意味より迷いなく敵を斬れという意味になるのだから。
下唇を強く噛むと私も自室へ戻るために広間を出た。