気がつくと隆造は仰向けに倒れていました。
傍らには自分の自転車が転がっています。
回りを見渡しても、そこに女の子の姿はありません。

隆造はゆっくりと上体を起こし、ただ呆然と自転車を眺めていました。

やがて、隆造はすべてを悟りました。

鼻先から、吹き出してくるような笑いが込み上げてきました。
無性に可笑しくて、本当に可笑しくて、声を上げて笑いました。

しかし、緩んだ頬の筋肉は次第にこわばり、みるみる顔はくしゃくしゃになっていきました。
鼻の奥から熱いものが、次から次へと込み上げてきます。

「すまん・・・」

口も開けずにそう呟く唇は、わなわなと震えています。

「・・・すまん」

わかっていながら、隆造は一番辛かったハルを守ろうともしなかったのです。
かえって無言で、ずっとハルを責め続けていたのかもしれません。


隆造はハルが亡くなって、初めて娘の死を受け入れることができたのでした。
しかも、そんな隆造をハルは許してくれたのです。

ハルの供養のために島に来たつもりでした。
しかし、救われたのは隆造自身でした。