そっか、よかった、と電話の相手は安心したような声色になる。



「ねぇ、もしかしてあなた、浅葱くん?」


「え、そうですけど…」



やっぱり!と少し興奮したような相手に頭の中で"?"が浮かぶ。



「あたし、葵と同じクラスの赤崎 ちなつっていうの」



ちなつ……葵からよく聞く名前ではある。


この人が……



「それにしてもどうして浅葱くんが?学校は?」


「休みました」



葵の看病しないといけないんで、と言うと少し間があってクスクスと笑う気配がした。



「浅葱くんも大変ねぇ」



……苦笑するしかない。


そういえば、



「葵、何かあったんですか?昨日ずぶ濡れで帰ってきたんですけど」


「えっ!?あいつ……」



あいつ?


……もしかして、



「城越ってやつか……?」



心の中の言葉が出ていたらしい。



「あら。浅葱くん、城越のこと知ってるの?」


「あ、少しなら……」



と言っても葵がポロッとこぼしたぐらいなんだけど。



「昨日、城越が葵に会いにいって何かあったのは確かだと思う。
あいつ、浅葱くんに嫉妬してたし。

とりあえず、浅葱くんのことちゃんと城越に話せ、とは言っておいたから大丈夫だとは思ったんだけど……」



あぁ、確かにめちゃくちゃ敵視されてたな。


気持ちは分かる。



オレのせいでややこしくなったとしたら、葵のためにオレも動くべき、か。


葵もオレのために動いてくれたんだし。



「赤崎さん。頼みがあるんですけど」


「何?」


「学校終わる時間教えてくれませんか?」



それで何かを察したのか、赤崎さんは四時に校門で待ってて、と言って電話を切った。



「四時、ね…」



それまで葵が起きなきゃいいけど。


ケータイを戻すために葵の部屋を開けると、



「あーくんっ!」


「………」



起きてる………



それからオレが家を出るギリギリまで、葵は寝てくれなかった。