コンコン、と部屋がノックされる。


顔を出したのは颯の母親。



「日向くん、制服乾いたから持ってきたわよ」


「あ、ありがとうございます」



いいえ〜、と言って颯の母親は出ていった。


時計を見ると思ったより時間が経っていて。


ケータイを見ると家からメールがきていた。



帰りに牛乳買ってきてって……空気読めよ。


近くのスーパー終わってるし。


仕方ない、コンビニ寄るか。



「俺、帰るな」


「おぉ」



俺は制服を着て、颯の家を後にした。





暗い夜道を歩きながら、帰り際に言われたことを思い出す。



「日向はさ、その浅葱って人に嫉妬して、無理矢理水無瀬さんにキスしちゃって。
確かによくはないと思うけど、好きな人に対してそう思うのは普通だからな?

俺はそういう日向の一面を知れて。
日向も普通の男なんだって分かって、ちょっと嬉しかったよ」



颯の言葉が、じんわりと心に染みて。


少しだけ、気持ちが軽くなった。



いつまでも、怖がってたらダメだ。


ちゃんと水無瀬さんと向き合おう。


颯と、赤崎さんのためにも。



ぐっと拳に力を入れて、俺は歩きだした。