ふと、掴んだ手の熱さや、抱きしめたときの華奢な体。
髪の毛の感触や、触れあったときの唇や舌の柔らかさが甦ってきて。
いっそ生々しいぐらいに夕方のことを思い出してしまい、ますます顔が熱くなる。
「マジかよ……」
両方か、と呟いた颯。
なんで分かるんだ。
いや、言わないですんだのはいいんだけど。
「それ、ちなつにバレたら殺されるぞ」
あぁ見えて、ちなつ水無瀬さんのこと大好きだから、と颯は苦笑する。
「それにしても、日向がそんなに積極的だとは思わなかったな」
「積極的、というか……」
あれはただ単に"嫉妬"からくる八つ当たりだと思う。
彼女の口から"浅葱"という名前を聞いて、取られたくない、自分だけのモノにしたいと思って。
全てを彼女で満たしたくて、自分で満たしてほしくて。
自分のことしか考えられないようにしたくて。
「……俺、これからどうすればいい?」
情けないけど何も浮かばない。
あんなことをしておいて、どう接すればいいのか分からない。
「ま、先ずは謝ることだな」
だよな……でもそのためには水無瀬さんに会う必要があるんだよ。
心の準備というやつが……


