「あ、わたしタオル持ってるから」
慌てたようにカバンからタオルを取り出して。
一瞬躊躇ったようにしてから、手が伸びてきた。
頬や髪に柔らかなタオルの感覚がして、あぁ、拭かれてるんだ、と思った。
まだ、体の自由は解けない。
ただ、目はしっかりと水無瀬さんを捕らえていた。
不意に目線が絡まって、水無瀬さんはふわり、と笑った。
その瞬間、俺の中で何かが崩れた。
塞き止められていた水が流れるような、何かを縛っていた紐が切れるような。
気がづいたら手を引いて、腕の中にすっぽりと水無瀬さんが収まっていた。
「しろ、こしくん……?」
戸惑ったような声。
水無瀬さんはきっと困ってる……けど、今だけ。
今だけは……
抱きしめる力を強くすると、花の香りがした。
「し、城越くん…っ、風邪引くから、とりあえず雨宿りしよう?」
慌てたような水無瀬さんの声に、少しだけ力を緩めたけど。
まだそばにいてほしくて、掴んだ手だけはもう少しだけ。
「城越くん…?」
そんな俺を不思議そうに見上げる。
近い距離に息が止まりそうになって、同時にズルい自分が出てきた。
ゆらゆらと微かに揺れている純粋で綺麗な瞳。
無防備な姿。
ねぇ、水無瀬さん。
俺は、自分で思っているよりもずっとズルい人間みたいだよ。
水無瀬さんを好きになってから、こんな自分が出てきてしまったんだ。
掴んでいる左手に力を入れて、聞こえるか聞こえないぐらいの声で。
「ごめんね」
そう呟いて。
「、城越く……んっ……」
そっと唇を重ねた。


