「それにしても、あんなに慌ててどうしたのかしら?」



あんなに慌ててる葵、初めて見たわ、と言う赤崎さんに颯も同意のようだ。



確かに……水無瀬さんがあんなに慌てる姿なんて珍しいと思う。


いつもふわふわしているし。



「外を見てからよね、葵が変わったのは」



何かあるのかしら、と言って赤崎さんは窓を覗く。


そのあとを颯も進んだ。



「「……あ」」



………?


なんだ?



疑問を浮かべる俺に、颯が手招きをした。


されるがままに窓を覗くと、校門のあたりに人が集まっているのが見える。


よく見ると、見知らない男子で。


黒の学ラン、ということはこの近くの進学校か。


遠目からでも、その男子の顔が整っていることが分かる。



ところどころ跳ねている柔らかそうな黒髪。


男子には珍しいような白い肌。


不機嫌そうに結ばれた薄い唇。


かけられた深い緑色のメガネがよく似合っている。


誰かを待っているのか?と首を傾げると



「浅葱!!」



と、透き通った声が響いた。


ドクンッ、と心臓が鳴る。


この声……間違えるはずない。


下を覗くと思った通り、小走りで水無瀬さんがあの男子に向かっていた。


男子の方も、それが普通かのように女子の輪から抜けて水無瀬さんのもとに向かう。