思わず苦笑してからちなつちゃんに目を向ける。
「うん。剣道の試合って初めて見たけど、迫力がすごいね」
かっこよかったよ、と言うとちなつちゃんはニヤリと笑った。
「葵、あれ見てみなよ」
「?」
とりあえずちなつちゃんの見ている方向に顔を向ける。
そこにはさっきわたしが見ていた試合の人が面をとっていた。
「うそ……」
わたしの呟きと同時に、きゃーっ!!と女子の喚声があがる。
だからきっと、わたしの声は誰にも届いていない。
「……城越、くん」
さっきの試合、城越くんだったんだ……
「きゃーっ、かっこいい!!」
「すごいよね!勝っちゃったよ!?」
「さすが日向くんだよねぇ!!」
確かに、すごくかっこよかった。
女の子が騒ぐのも納得だよ。
それにしても……ちょっと騒がしすぎ、じゃないかな。
剣道部の人たち、まだ試合中の人もいるのに……
ちなつちゃんも「あんな声どこから出ているのかしら」とちょっとキレ気味。
まぁまぁ、とちなつちゃんを宥めてから視線を戻すと城越くんがいて、ついそっちを見てしまう。
すごい汗……
わたしが思っている以上に、剣道って大変なのかな。
「ちっ…何してるのよ。しっかりしなさいよ颯ーっ!!」
隣から急にちなつちゃんの声が聞こえてびっくりする。
顔を向けるとちなつちゃんの顔はちょっとイライラしていて。
き、綺麗な顔をしているだけに迫力が……じゃない!
「ち、ちなつちゃん、ちょっと声落として……」
それからは試合を見る余裕なんてなく。
わたしはずっとちなつちゃんと明乃ちゃんを宥めていた。


