コンコン、と微かに聞こえたノックにわたしはスケッチブックから顔をあげた。



「具合どう?」


「うん、平気」



明日からは学校に行けるよ、と言うと、浅葱はほっとしたように顔の表情を緩めた。



城越くんにキスをされた帰り、どうしようもなく顔が熱くて、頭の中がいろいろなものでぐちゃぐちゃで。


もう濡れてたし、スッキリしたかったし、傘はいいや、なんて投げやりな気分で帰ったためにわたしは熱をだしたらしい。


それで浅葱まで学校を休ませちゃって……本当に申し訳ないよ。


浅葱に初めての彼女さんもできたのに……


はぁ、と浅葱に分からないようにこっそりとため息をこぼす。



「それ、」


「え?」



浅葱が見ていたのはわたしの手元、つまりスケッチブック。



「珍しいね、葵が人を描くなんて」


「ち、ちがっ…これは……!!」



慌てて隠すけど浅葱はバッチリと見たみたいで、ニヤリと笑った。



よ、よりによって浅葱に見られるなんて……


誰に見られても恥ずかしいことは恥ずかしいけど。


うーん……でも浅葱はわたしの一番近くにいる人と言ってもおかしくないから、なんというか……


う、うまく説明できないけど気恥ずかしい。


カアァ、と赤くなる顔を隠すようにわたしは俯く。



「明日、頑張れよ。きっと大丈夫だから」



それが何を指しているのか。


輪郭のはっきりしないものだったけど、なんとなく分かるから、わたしはこくんと頷いておいた。


もう少し寝てろ、と軽くわたしの頭を撫でてから、浅葱は部屋を出ていった。



「頑張れ、か……」



さっきまで開いていたページを捲ると、そこには城越くんが描かれていた。



「城越くん……」