「……あ、あおい」
ピタリ、と動いていた足が止まる。
上目使いで俺を見てくるのは無意識、だとは思うけど。
つい顔が熱くなる。
「…葵……」
ただ名前を呼ぶだけなのに、こんなに緊張したことはないと思う。
それぐらい、俺には勇気が必要なことで。
「、葵……」
もう一度呼んであげると、パァッと花が咲いたような笑顔を浮かべた。
頬を摺りよせる姿は、まぁ……すごくかわいいんだけど。
………これは何かの拷問?
もしくは試練?
かなりの忍耐力を試されているような気がする。
「葵」
「なぁに?」
ニコニコとご機嫌な様子に笑みがこぼれるけど、そうも言っていられない。
「ごめん。ちょっとこの腕離してくれる?
後ろのドアが……」
「いやっ!!」
「え、」
泣き出してしまいそうなぐらい眉を下げて、更に強い力で抱きついてくる。
というか、こんなすぐに断られるとは……
嬉しくない、と言ったら嘘になるけど、今は困る。
「浅葱が心配してるよ?会いたくないの?」
「……今はひーくんがいてくれれば、それでいいもん」
「ひーくん?」
………って、俺のことか?
「ぶっ……ひーくんだって」
「あぁ、日向だからひーくんね。水無瀬さんもかわいいあだ名付けるねぇ」
「城越、悪い……」
若干二名、明らかに馬鹿にしたような声が聞こえてイラッとしたけど、それはあとで対処しよう。
今は水無…葵をどうにかしないと……
「寝るにしても、ベッドに行かないと……床のままだと痛いでしょ?
一回離そう?」
「……いや」
その声が小さくて、震えているような気がして顔を覗いてみると。
「……葵?」
「……やぁ………やだぁっ…!」


