「ワンワンっ!」

散歩が再開されて、私の前方を歩く犬が楽しそうに吠えています。

彼の名前はソラ。

ソラが我が家に来てからちょうど10年、
彼はそのとき1歳だったので、今は11歳になります。

人間でいえばもう60歳ぐらいのおじいさんなのに、
毎日の散歩は欠かさない元気な柴犬なのです。

「も~、あんたのせいで
 またヒロト君と喋るチャンス無かったじゃん。」

と愚痴ってはみましたが、実際はソラがどれだけ待ってくれていても、私が安田大斗君と話をする機会は一生訪れなかったでしょう。

これは私の一方的な片思い、それもほとんど一目惚れだったからです。

彼と言葉を交わしたことは一度もありません。

そしてこれからも彼と言葉を交わすことは無いだろうな、と自分の中で叶わぬ思いを納得させているのです。