カキーン!


白球が空へと消えていく。

それを必死に追いかける彼。

その姿を目で追う私。

遠すぎて彼の顔をハッキリと見ることはできません。

とは言え、恥ずかしいので近寄ることもできません。

それにここは私の通っている高校ではなく、家から近い地元の高校です。

友人はおろか、知り合いもいない学校の門をくぐる勇気なんて人見知りの私からはとても出てきません。

だから毎日グラウンドの外から金網越しに覗いているだけなのです。

「ワンっ!」

連れていた犬が先に行こうとして一声挙げました。

「分かったよ、行くから引っ張らないでっ。」

後ろ髪をひかれる思いで金網の前から立ち去りました。

そう、私は毎日散歩のついでに彼の姿を見ているのです。

いえ、毎日彼の姿を見たいから散歩に出ている、と言った方が正しいかもしれません。

残念ながら、彼は私の名前すら知りもしないのですが。