不器用彼氏・彼女

彼女はジャンプして喜んでいる。
(あれ? これってさっき彼女が言ってた合宿所近くの温泉宿なんじゃ……よし)
 俺は彼女の記憶が戻るかもしれないと思って、思い切って彼女を誘ってみる。
「なあ、『凪』、俺と一緒に行かないか?」
「えっ?」
 彼女は不意の出来事に驚く!
「あっ、いや、決してやましい気持はないんだ。ここってさ、『凪』がさっき言ってた合
宿所近くの場所だからさ、行って見たら何か思い出すかなあ~って思って……」
 俺はアタフタして自分でも何を言ってるのか分からなくなっている。
「ふふふ、そんなに慌てなくても」
 彼女は笑って答える。
「いいよ、分かった、行こう!」
 彼女はそんな俺を見て微笑んで答える。
「えっ? 本当に?」
「うん。このまま何もしないでいても多分記憶は戻らないと思うし、それなら記憶の手掛
りになる場所に行った方がまだ見込みはあるものね」
「よ、よし! そ、それじゃ今度の週末一緒に行こうか?」
「うん、そうだね! 一緒に行こう!」
「お、おう!」
(よ、よし二人で旅行に行く約束を取り付けたぞ! つっても彼女の記憶を取り戻すため
に行くわけだし、あまり羽目を外さねえようにしねえとな)
 そう言って俺は心の中でガッツポーズをする。そして俺は本屋に立ち寄って合宿場所の
地図を買って家に帰った。そして俺は家に帰ってすぐに地図を確認して、今度行く合宿所
の予行練習をした。

そして週末になり、俺は待ち合わせのために、駅に向かった!
「ちょっと早く来すぎたかな?」
 俺は彼女と会う一時間前に到着した! そして三十分後彼女は待ち合わせ場所にやって
きた!
「あれ? もう来てたの。早いね」
「それはこっちの台詞。一体いつ来たの?」
「いや、さっき来たとこ」
「ふふ。何それ! 可笑しい」
 そう言って彼女は微笑む!
「えっ? なんか可笑しかったかな?」
「ううん! そうじゃなくて今の会話、他の人が聞いてたら私達付き合ってる思われちゃ
うかもね?」
「えっ? いや、別に俺はそれでも……」
「ん? 何か言った?」
「い、いや何でもねえ! それじゃ行こっか?」
「うん、そうだね!」
 そう言って俺達は駅に行って電車に乗り、合宿所のある温泉町に向かった!

電車に揺られる事四時間、ようやく温泉街に着いた。
「やっと着いたー!」
 俺は思いっきり背伸びをする。
「長かったね?」
「あぁ、そうだな。それじゃ行くか?」
「ねえ、それよりも寄り道してかない?」
「いや、いあや何しに来たんだよ。『凪』の記憶を取り戻すために来たんだろ? 寄り道
してる暇なんかねえ~って」
 俺は手を左右に振って呆れる。
「え~、旅行っていったら観光とか食べ歩きするのが定番でしょ? ねえ、ダメ?」
 彼女は両手を合わせて上目遣いに俺を見上げる。
「うっ、はあ~分かったよ。それじゃ、ちょっとだけな」
「ありがとう」
 彼女は満面の笑みで喜ぶ。
(そんな顔されたら断れねえ~って)
 そして俺達は合宿所に行く前に横丁に入った。
「うわ~、色々な食べ物が一杯あるね~。全種類食べたいな~」
「もうすぐお昼だからあんまり食べちゃ駄目だって」
「う~、食べたいな~」
 彼女は恨めしそうに食べ物を見ている。
「はあ~、分かったよ。それじゃ、一つだけな」
「えっ、いいの? それじゃどれ食べよっかな?」
 彼女は楽しそうに選んでいる。
「う~、あれもいいな~。これもいいな~。」
 彼女は何を食べようか迷っている。
「何食べるか決まった?」
「あっ、ちょっと待って。う~、悩むよ~」
「何をそんなに悩んでんだ?」
「う~んとね、ビーフコロッケを食べるかこっちのメンチカツを食べるか迷ってるの」
「分かった。それじゃ、両方買って俺と半分こずつにしよう」
「えっ、いいの? やった~!」
 彼女は大喜びする。そして俺は両方買い彼女と半分こする。
「ありがとう」
 そして俺達はコロッケにかぶりつく。
「おいしいね?」
「確かに」
 二人でコロッケをたいらげる。
「次は何食べようかな~?」
「もうお昼だからダメ?」
「えっ~、もう少しくらい……」
「だ~め!」
「うっ、は~い……」
 彼女は少しすねている。そして俺達は近くの定食屋に入り、海鮮丼を食べた。
「美味しかったね?」
「そうだな。やっぱり海の近くだからネタも新鮮だったしな」
 俺達は定食屋を後にし、本来の目的、彼女の最後の記憶がある合宿所に向かう。
「あっ、ねえ、ここ寄ってこ?」
 彼女が足を止めたのは神社の前だった。
「えっ? いや、だから寄り道してる時間は……」
「見て! ここパワースポットがあるんだって。他には縁結びの神様や商売繁盛それに、
どんなお願い事も叶えてくれるんだって! ね、いこ?」
「はあ~、分かった! それじゃあ、ちょっとだけな」
「うん」
 彼女は笑顔で喜ぶ。
(そんな顔されたら断れねえって)
 そして俺達は神社に入る。そして本殿をお参りし、おみくじの前で足を止める。
「あっ、おみくじがあるよ。ねえ、引いてこ?」
 そして彼女がおみくじを引く。
「何が出るかな?」
 ドキドキして彼女はおみくじを見る。
「やったー! 大吉だ!」
「へえ~、凄いな! で、何て書いてあるんだ?」
「ん~とね、願い事は近いうちに叶うだって。恋愛運は諦めかけてた人と結ばれる兆しあ
りだって」
「恋愛って、誰か好きな人でもいるのか?」
 俺は興味本位に彼女に尋ねる。
「うん、いるよ!」
 彼女はキッパリと答える。
「えっ? だ、誰?」
「な・い・しょ」
 彼女は意地悪そうに答える。
「それじゃヒントは?」
 俺はしつこく食い下がる。
「え~、しょうがないな~。私が好きな人は一緒に悩んでくれる人かな」
「それじゃ全然わかんねえって。俺の知ってる人? せめて最初の頭文字だけでも?」
「もう教えないってば。それに『春人』にだけは絶対に教えられないからね」
「何でだよ?」
「鈍感……」
 彼女は小声で話す。
「えっ? 何か言った?」
「ううん。それよりも次は『春人』の番だよ」
 そして次に俺がおみくじを引く。
「だ…大凶……」
 俺はがっくりと肩を落とす。
「まあまあ、大凶って中々出ないんだよ。逆にいい事あるかも?」
「どんな慰めだよ」
「で、何て書いてあるの?」
「えっ~と、願い事は遠ざかるであろう。恋愛運は後悔するであろうか。はあ~、何だこ
れ?」
「何だろうね? まっ、後悔しないようにすればいいって事だよ。元気出して!」
 彼女は俺に気遣う。
「そうだな」
「それじゃあ、おみくじを枝に結ぼ?」
 そして俺達はおみくじを木の枝に吊るす。そして次に俺達は絵馬を見つける。
「ねえ、絵馬があるよ。書いていこ?」
「ったく、しゃあねえな。ここまできたら最後まで付き合うよ」
 そして俺達は絵馬を書く。
「ねえ、『春人』はなんて書いたの?」
「俺? 俺よりも『凪』は何て書いたんだ?」
「私? 私はねえ、『春人』が陸上でいい成績が取れますようにって」
「なっ、俺の事?」
「うん」
 俺は顔を真っ赤にして喜ぶ。
「それで『春人』は?」
「俺? 俺は『凪』の記憶が早く戻りますようにって」
「ふふ、ありがとう」
「なんか俺達自分の願い事書いてねえな」