不器用彼氏・彼女

「……」
「そうそう、二人で縁日にも行ったよな。あの時、俺『愛』にいい所見せようとして、色
々やったけど、てんで駄目で、そのくせ『愛』は何でも出来て、俺凄っげえ~悔しくてさ
今度は『愛』にいい所見せてやるって思ったんだ」
「そう……」
「そうそう、二人で花火も見たよな。あれは綺麗だったよな?」
「覚えてない!」
 彼女は強い口調で答える。けれど俺はそんな彼女の気持など気づいてもいなかった。
「そうそう、『愛』の小指につけてる指輪、俺が露天商で買ったやつなんだよ。初め薬指
にはめようとしたら、全然入らなくてさ、結局小指にしかはめられなくて、それで……」
「……加減にして……」
「『愛』?」
「いい加減にしてって言ってんの! 全部覚えてないって言ってんでしょ! 大体あなた
が好きだった人は、記憶を失う前の私で、今の私じゃない!」
 そして彼女は立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってくれ! 俺そんなつもりじゃ……」
 そんな彼女を俺は必死に引きとめようと、彼女の肩を掴む。
「私に触らないで! こんりんざい私があんたの事好きになる事はない」
 そう言って彼女は俺の手を振り払う。そして……。
「もう私に構わないで!」
 そう言って彼女は小指につけていた指輪を俺に向かって投げつける。そして彼女は俺の
もとから立ち去る。

「『愛』……」
 この時、俺は彼女の本当の気持に気づいてなかった。彼女は去り際に、涙を流していた
事に俺は気づかない。

「何で涙なんか……。それになんでこんなに胸が苦しいの? もう嫌だよ……」
 彼女は涙を拭いながら学校に登校した。

「ははは……『愛』との繋がりなくなっちゃった……」
 俺は指輪を握り締めながら、学校に向かった。

俺が学校に到着した時、すでに一限目の授業は始まっていたが、俺は教室に向かう気力
が無かった……。
そして俺は非常階段の前まで来た所で頬に冷たいものが流れるのに気づく。そしてポタ
ポタと涙が溢れ出す。
「全部俺のせいだ……。彼女が記憶を失ったのは全部全部全部全部全部俺のせいだー! 
あの時、俺が彼女を送ってれば……俺があの時彼女を縁日に誘わなければ……そもそも俺
が彼女の事を好きにならなければこんな事にならなくて済んだんだ……」
 俺は非常階段の下でうずくまる。そしてなにか冷たいものが俺の額に当たる。
「よう『仁科』、珍しく落ち込んでるな」
 そう言って『白金』が俺にオレンジジュースを渡す。
「横いいか?」
 そう言って『白金』俺の横に座る。
「……俺のせいで彼女が記憶を失ったんだ……」
 俺はか細い声を絞り出す。
「そうか……」
 『白金』はただ黙って俺の言葉を聞いている。
「なあ、俺はこれからどうすればいい? 彼女とのたった一つの繋がりも、失くしちまっ
た……。もう俺はこれからどうすればいいか分かんねえよ……」
「そうだな……まず俺の話を聞いてくれるか?」
 そして『白金』が自分の事を語りだす。
「俺が彼女と付き合う事になった話だ。最初彼女に初めて会った時、彼女は橋の上に一人
で立っていた。俺はそんな彼女の美しさに見とれてた。彼女は謎の多い女性でな、俺は彼
女の事をもっとよく知りたいと思った。そしてその時彼女は事故が原因で何日も病院のベ
ットで生死の境を彷徨(さまよ)ったんだ。俺はその時思ったんだ。なんで彼女に俺の本当の思いを
伝えられなかったんだと……。その時俺は深く後悔した……。そして俺は彼女が目覚めた
時、俺は彼女に自分の気持を伝えた。そして俺達は付き合う事になった……。さっきの質
問の答えなんだが、俺には答えを言う事は出来ない。答えはおまえ自身が見つけなきゃい
けない。まあ、俺が何を言いたいかというとだな……俺のように後悔だけはするなって事
さ。確かに『橘』は記憶を失ってお前の事を忘れた。だが、死んだわけじゃない。お前に
とって、『橘』はどういう存在だったんだ? もし記憶を失う前の『橘』が好きだっただ
けなら、キッパリと彼女の事、諦める事だ。お互いその方がいい。けれど、それだけじゃ
ないのなら……。後はお前が考えろ」
 そう言って『白金』はゆっくりと立ち上がり教室に戻った。
「……俺の本当の気持ち……?」
 俺は彼女が俺の事を認めてくれたから、彼女の事が好きになった。それは事実……。
 でも俺を認めてくれた彼女はもういない……。
そして俺は自分の気持と向き合う。
それじゃ俺は今の彼女の事は好きじゃないのか?
「いや、違う……。」
確かに最初はそうだった。けど、今は俺は『橘 愛』という存在が好きなんだ。
明るくて活発で誰からも好かれてて、ひねくれ屋で素直じゃなくて、それでいて自分の
本当の気持ちを伝える人もいなくて俺はそんな彼女に惚れたんだ。
なら、やるべき事は一つ……。
そして俺は立ち上がり、一つの重大な決意をする。

 翌日俺は、彼女に会いに行く。彼女に嫌われても俺の気持を伝えるために。
「『愛』、おはよう! これプレゼン……」
「……」
 彼女は無言のまま通り過ぎる……。
「もう……立ち止まってもくれねえのか……」
 俺は花を持ったままうつむく。
「……けど、俺は諦めねえ」
そして俺は毎日毎日彼女にアプローチを続けるが、彼女は一度も俺の話を聞いてくれる
事はなかった……。

それから月日は流れやがて夏休みに入る。
「よし、咲いた! これを持っていけば……」
 俺は種から育てた花を彼女に渡すために、自転車で彼女の自宅に向かう。
そしてその途中、彼女に出会う。
「『愛』! 待ってくれ! 話したい事が……」
「あんたと話す事なんて何も無い!」
 そう言って彼女は俺の横を通り過ぎる。
「負けるもんか」
 俺は自転車を押して彼女の後を追いかける。

「ついてくんな」
「いいや、俺の話を聞いてくれるまで俺は諦めない!」
「話す事なんて何も無い!」
「俺にはある!」
「……」
 彼女は無言のまま歩き続ける。
「それに今日は特別なプレゼントを持ってきたんだ」
 その時、突然彼女が走り出し、バスに乗り込む。
俺が彼女を追いかけようとしてる間にバスが走り出す。
「クソー! 諦めるもんかー!」
 俺はここで彼女を追うのを諦めたら、もう二度と彼女と親しくなれない感じがしたので
乗っていた自転車で、バスの後を追う。

「クソー! 全然追いつけねえ……」
けれど、どんどん距離が離されていく。
「このままじゃ、追いつけねえ……」
 そして俺は彼女が乗ったバスの先回りをするために公園を突っ切る。
「どいてくれー!」
 そしてその先にある坂を一気に駆け下りる。
「よし、ここを下れば、バスに追いつける」
 そして丁度向こうからバスが走ってくるのが見える。
「ビンゴ!」
 そして俺はブレーキをかける。
「あ、あれ?」
 俺はブレーキをかけるが、一気に駆け下りたので、ブレーキが効かない。
「マズイ……このままじゃ、ぶつかる」
 ドン! そして俺は向こうから走ってきたバスとぶつかる。
バスはキキィーという音を鳴らしてブレーキをかける。
そして俺の自転車は見るも無残に壊れる。
「『仁科』―!」
そして彼女がバスから降りて来る。
「嘘でしょ……『仁科』……あんた私の事絶対に諦めないって言ったのに……。お願いだから返事してー!」
 彼女は大声で泣き叫ぶ!

「呼んだ?」
 俺はバスの下から出てくる。
「この馬鹿! これ以上私に心配させないで」
 そう言って彼女は俺を抱きしめる。
「ごめん……。けど……俺は君を失いたくはなかったんだ……」
「あんたがいなくなったら私は……」
 彼女の涙が俺の頬に落ちる。
「ごめん……俺、『愛』の気持ち全然考えてなかった……。『愛』にいっこくも早く記憶
を取り戻して欲しくて俺、君に随分ひどい事言ったよな……。今いる君を無視して……」
「そうだよ……悲しかったよ……。私せっかくあんたの事好きになりかけてたのに、あん
たが好きなのは記憶を失う前の私で、私どうやったって敵わないって思ったら凄く悲しく
なって、それだったらいっそあんたとはもう二度と会わないって決めて、私あんたに随分
酷(ひど)い事した……」
「ははは……気にしてないよ……」
「あんたを遠ざけた後、私あんたの事が好きだって言う事に気づいた。でも私、こんなん
だから、素直になれなくてどうしたらいいか分からなくて、それで、あんたがバスにひか