「1番可哀想なのは、お腹の赤ちゃんだよ。可哀想ったって、仕方ないけど。

でも、ここでは手術出来ないんだって。美緒の週数では胎児が育ち過ぎてて、人工中絶手術が受けられないって言われたよ。
母体保護法っていうのがあって、22週以降の堕胎は法律で禁止されてるの。

お腹の赤ちゃんは指も揃っているし、耳も聞こえ始める。
それでも、どうしても堕したい人には、薬で無理矢理、陣痛を起こして、赤ちゃん産ませて、死産だったことにするんだって。

うちでは出来ないから、よそでやってくれって、さっきの医者に言われたわ。
……それに」


みどりはしばらく間を置いて、重大な発表をするようにゆっくりと言った。


「処置の費用、300万近く掛かるって。順調に育っている赤ん坊を掻き出すのは、殺人と同じだってどの医者もやりたがらない。だから高額になるんだって」


「えっ….?」


あまりにも法外な費用に美緒の涙はピタリと止まる。

300万。
美緒に払い切れるはずもない、気が遠くなるような、現実離れした金額。



「帰って、園長先生に相談しなくちゃなあ…」


みどりは窓の方を向いて、ふう、とため息を吐いた。