ブレザーの紺の生地は少し痛んでいるし、ウエストベルトを5センチ以上詰めたせいで、スカートの形がいびつな気がする。

そのことが、新しいクラスメイトに囲まれた美緒を極度の人見知りにしていた。


しかも、一緒に進学すると信じていた三田村学園の友達も、直前になって引っ越しをしてしまい、そのショックも癒えなかった。


誰とも打ち解けず、孤立しかけていた美緒に明るく声を掛けてくれたのが、真由子だった。


真由子の右の太ももにある大きな縫い傷があるのを美緒は知っている。

それは、事故の悲惨さを物語る傷痕だった。
それまで、バトントワリングをやっていたという真由子の人生が変わってしまった証し。


高1の夏休みに真由子がそれを見せてくれた後、美緒は自分の生い立ちを全て話した。
今まで、そういうことを人に話すのは大嫌いだったのに。


誰もが、美緒のことを可哀想だと哀れむのに、真由子は違った。


『美緒はお父さんに拳で殴られたことある?』


日が暮れかけた公園のベンチで真由子は訊いた。
美緒は首を振る。

もちろん、園長や先生達に多少怒られたことはあるが、憎しみを込めて殴られたことは一度もなかった。