名前を教えてあげる。








夢のような記憶から現実に戻った美緒は、ベッドの上で仰向けのまま薄目を開けた。


西側の壁一面に取り付けられた本棚には、びっしりと本が詰まっている。

いかにも高そうな装丁の百科事典、日本文学の全集、試験勉強の攻略法。お気に入りのSF小説のハードカバー。

そこだけみると、図書室みたいと美緒はいつも同じことを考える。

そのどれにも興味が持てず、決して手に取ることはなかった。
祖母と住んでいた家には本らしい本がなかったから、美緒には読書をするという習慣がなかった。



初夏の若々しい陽光に満ちた日曜日。

こんな素晴らしい休日にも、美緒と順は出掛けることもせず、お互いの裸を貪ることに没頭していたーーーチュールレースのカーテン越しの優しい光の下で。


大きめなボリュームで、ずっとヒップホップが流れている。美緒の知らないアメリカのアーティスト。

順がファンだというわけではなかった。ひたすら騒々しい音楽を選んだだけ。

決して、それよりも大きな声を立てたりしてはいけない。


10LDKの洋館の建物は廊下も広く、順の12畳もある自室の下はサンルームなのだから、聞こえたりするはずはないけれど、細心の注意を払うに越したことはない。