名前を教えてあげる。



ハニーヌガーの小さなカスがついた形の良い唇からつぶやくような声が漏れ、せつなく何かを乞う瞳で美緒を見る。


ーー彼氏…とか付き合ってる人いる?


チョコレートハニーヌガーよりも甘い順の眼差しに美緒はむせ返りそうになる。

金縛りにかかってしまったように美緒は順の瞳を見つめたまま、動けなくなってしまった。


さざなみの音だけがしばらく2人の間を繋いだ後。


ーーいない…


美緒は小さな声で答えた。


ーー良かった……


順が安堵したような笑顔を見せた。

やっとここまできて、美緒は順の気持ちに気が付いた。


ただの偶然だと思っていた。

スーパーの中でよく目が合うこと。
いつの間にか順がそばにいることも。


バイトが終わると通用口に学生服の順が立っていて、『お疲れ様』を言ってくれること。


偶然ではなかった……


はちきれそうな胸。
こんな幸せ過ぎる出来事が今までの人生であっただろうか……


クリームイエローの月光の下で。


嬉しいはずなのに、なぜか怖くて、今にも泣いてしまいそうだった。


震える自分の身体を、美緒は両手でぎゅっと抱きしめた。