名前を教えてあげる。



ーーー順。

その名を口にするだけで切なくなる。


5年前のあの夜、窓の外の赤い月を見ていた順。

潤んだ黒い瞳を思い出す。

群青色の空に浮かぶ赤いマーブル模様を描いた満月。


そんな月を見たのは、それきりだ。


多分、一生、忘れられないだろう……


月明かりに照らされて、いつまでもパソコン机に頬杖をついていた順の姿を。

最後に見た順の。


いなくなってから、何度も夢を見た。
グレーのセーターにペパーミントグリーンのシャツの裾を覗かせた順が立ち上がり、美緒の方に歩いてくるワンシーンだけの夢。


ごめんね、ごめんね……


美緒が泣きながら、赦しを乞おうとすると、スッと消えていなくなる。

そして、美緒は涙に濡れた頬で目覚めるのだ。


それを救ってくれたのは、光太郎だ。


でも…やはり違う。
今でも最愛の男は、野口光太郎ではなく中里順であると、はっきりと思い知る。


「順くんね、美緒が幸せでいるのか、とても気にしていたわ…」


みどりは口元だけで笑ったあと、縁側の外の景色を眺める。