名前を教えてあげる。



昨夜、離れの部屋で聴いたのはゴウゴウと力強い音だったのに、今はサラサラと涼やかな音に変わっている。


途中で、ガードレールが切れている箇所があり、そこは河原に降りられるようになっているのを見つけた。


「恵理奈、川の方にいってみようか?」

「わあい!行く行く!」


美緒の5センチヒールのパンプスでは、土手を降り、石のゴロゴロした河原を歩くのは至難の技だったけれど、恵理奈の手を借り、なんとか砂地に辿り付けた。


川幅は7,8メートルで、さほど広くはない。こちら側は水辺にしゃがんで透明な水を手ですくえるのに、向こう岸の川面は、毒々しい深緑色をしていた。
流れ方も遅くみえた。


「あっ!ママ、メダカ!」


恵理奈が足元を指差して叫んだ。

「えっ?」

透明な水の中に細くて白っぽいものが、ぴゅっと岩陰に隠れるのが見えた。






「メダカね、夏になればもっとたくさんいるがあ。この時期いるってことは、はぐれメダカかねえ?
恵理奈ちゃん、来たから挨拶にきたのかなあ?」


よろず屋『倉橋商店』奥のレジ前で雅子は朗らか言った。