名前を教えてあげる。



でも、厳しい自然と共存しなくてはならないこの地では、そんなことはどうでもいい。

思いやりを持ち、明るい思考を持たなければ生きていけない……
それが人と人の絆になる。


美緒は気付いた。


そうだ、こんな夫婦が私の理想のかもな……
光太郎とは、こんな風になれるかな…


思いを巡らせつつ、しじみの味噌汁を啜ったところで、

「五郎さん、明日は美緒さんに何してもらうつもりかね?」

ふいに、倉橋が訊いた。


五郎は下を向き咀嚼したまま、しばらく答えなかった。


「おじさん!美緒ちゃん、何か足りんものがあったらいけんけん」


雅子が追い立てるように言うと、やっと五郎は顔を上げた。


「…白菜と葱の収穫、手伝ってもらうかな。後はゆっくりして下さいよ」


やっと美緒の目を見た。

五郎は柔和に微笑んでいた。

五郎の色素の薄い黒目に、自分の姿が映ったのを見て、慟哭のような感情が美緒の腹を突き上げる。


「…はい、分かりました」


ご飯が喉につかえたふりして、胸を叩く真似をして、下を向く。
こんなところで涙を流すなんて、場違いもいいところだ。


「なら、明日の朝、長靴と帽子、私の持ってきてあげるわ!」


雅子は、世話好きを全開にして言った。