名前を教えてあげる。



不幸な自分の境遇を、順には知られたくなかった。


養護施設の子供だと知ると、距離を置こうとする人だっていることを分かっている。


だから、順がコロッケを差し出し、親しげにしてくれたことが美緒には信じられなかった。






PM7:30


いつもはまだ混雑する時間帯なのに、ぽっかりと異次元に入り込んだみたいに客足が途絶えた。


「雨でも降ってきたのかなあ?」


中里順(なかざとじゅん)がスーパーの出入り口の方を向いて言う。


同い年の順は、背がとても高いから、美緒には天から降ってくる声みたいに聞こえた。


「天気予報では、雨降らないっていってたよ」


美緒は順のスーパーの店名が入ったエプロンの胸の辺りを見て答える。


順の立つ位置が至近距離過ぎた。
恥ずかしくて、順の顔を正視することが出来なかった。


ポイント2倍の特売デー。

大渋滞を避ける為に、店長は、出勤してきた美緒と順に同じレジに入ることを命じたのだった。


美緒がバーコードリーダーを使い、順は客から受け取った代金をキャッシャーに入れる、というポジション。


空白の時間が嫌だった。


つまらない、と思われなくなくて、美緒は必死に話題を探した。