「平気だよお、三田村学園のこと話せば信じてくれるさ」


「んでもよ!」


口調は乱暴だけれど、紀香の目は真剣に美緒を心配する気持ちが滲み出ていた。


「すっげえ山奥なんでしょお?
そんなとこに住んでる一人暮らしのおっさんの家訪ねて、変態だったら、どうするわけさ?
レイプされに行くようなもんじゃん!」


「また、レイプですか・・」


美緒は苦笑した。


「大丈夫だって。国分村の役場の人とは直にメールしたんだよ。
私達が国分五郎の家を訪問する日時とかバレてるんだから。
ていうか、村の主催の催しに協力するくらいだから、ちゃんとしてる人と思うし。

それにぃ、第一、五郎は私のお父さんだよ?娘にそんなことする人いないでしょ?」


「まあ、そうだね…するわけないよね…」


今日の紀香は、ピンク色のチークがいつもより濃い。
でも、それはオカメインコみたいで可愛らしかった。


ハタチをとっくに過ぎても、自分の父親を『パパ』と呼ぶ紀香は、自分の父親に対して絶大な信用をおいていた。

美緒は信じられない話。


ーー生理が来る中1まで2人で風呂に入ってたよ。今までパパが嫌だと思ったことは1回もない!


(それを聞いた美緒は『ゲー!』と叫んで仰け反った)


真由子のように父親との確執が一切無い紀香はそれだけでも幸せなのかもしれない。


「だからノリ、大丈夫だよ。孫の恵理奈もいるんだし……」


なんの前触れもなく、卑屈な黒い瞳が美緒の脳裏をかすめた。