『…美緒?まだ起きてたの?』
哲平の耳元で、邪気のない声がする。
さっきまで、自分の胸の中で縋るような目をしていた女。
その女が宝物のように大事に隠している男。
それは、やはりこの世に実在するのだ思い知らされ、哲平は唇を噛みしめる。
「……オレ、星野哲平だけど」
『……え?』
「ホッシーだよ、
ホッシーこと、ほ、し、の」
いきなり聞こえてきた男の低い声に、順は、
『……ほしの…?』
と呟いたあと、言葉を失う。
次の瞬間、すべてを理解した。
美緒の友人[ホッシー]の正体を。
哲平は電話を持ったまま、ゆっくりと窓辺に寄りカーテンを開けた。闇に支配されたゲレンデを見下ろす。
「どうも。ちょっくら挨拶しとくよ」
唇を片側だけ引き上げ、勝ち誇ったよう笑みを浮かべた。
「……お前のかわい子ちゃん、さっきまで俺の上で、ケツ振ってたぜ。
子猫みてえな声出してよ。
たっぷり甘い蜜、吸わせてもらったよ…
お前、なーんも気付いてなかったのか?」
『………』
電波の向こうで、かすかに、ひゅう…と息を飲む気配がした。