名前を教えてあげる。



…隣の部屋にいる順に、聞かれたかもしれない。


しかし、そんなのは杞憂だった。

息をひそめ様子を伺ったけれど、順が近付いてくる気配は全くなかった。


集中している時の順は話し掛けても、すぐに答えてくれない。

慣れないうちは、無視されたと悲しくなったり、ムカついたりしたけれど、

「どっかに脳味噌がワープしている状態だから」

という順の言葉をきいてからは、気にしないことにした。


[困難だからこそ意味がある
It makes sense simply because it is difficult]

[努力は必ず報われる
Efforts will be rewarded by all means]



順のデスクの前に貼られた自筆の標語。シャーペンをクルクル廻す順のくせーー美緒が何度もトライして、ついに諦めたーーは昔のままで、見ていると高校3年の春、順の部屋で過ごしていた時を思い出す。

あの頃の順には、まだ余裕があった。


食事も短時間で済ませるようになった。

食卓ではなく、自分の机で掻き込むようにして食べる。
何かに追われているみたいに。

美緒は、その隣のテレビのある部屋で音量をギリギリまで下げて、1人で食事をした。