この辺りでは、家賃が高すぎて住むのは到底無理だ。
かといって、生まれ故郷の横須賀近辺では、大人達に2人の仲を引き裂かれてしまうかもしれない。
あれこれ考えたあげく、順が決めた住処は、ここから電車で南下すること1時間。
東京湾を臨む工業地帯に近い「ひばりハイツ」という名のアパートだった。
(その市は、他市よりも住民税が安く子育ての福祉制度が充実しているんだよ、と順は言った)
築40年の南向きの一階。
保証人はヒロがなってくれた。
間取りは2Kで手狭だけれど、家の前が公園で遮るものがないので、陽当たりが抜群にいい。
欲のない老夫婦が持ち主のそこは、家賃が相場よりも断然安かった。
「一時帰国とかしたら、絶対絶対アパートに遊びに来てね?」
美緒が言うと、ヒロは肩を少し竦め、
「ままごとゴッコみたいだろうな。まあ、頑張れよ」
といってあの笑い方をした。
かちゃりと、リビングのドアノブが廻された。
「ただいまあ」
ダッフルコートにジーンズの順が両手に大きな紙袋を下げて帰ってきた。
「あ、ヒロ、帰ってたんだ」
順はヒロの前を横切り、「よいせっ」と大理石のテーブルの上に荷物を置く。

