もう、そんなことはどうでもいい。洗うことも新しいものを買うこともしたくない。
もうすぐ卒業するのだから。
同級生の噂話もそこまでだ。
就職先の温泉ホテルは、由緒ある観光地にあり海外からの客も多い。県内だが、行くとなれば車で2時間半はかかる。
横須賀を離れることが、今となっては救いだ。
田中みどりの言ったとおり、過去のことは忘れて、新しい環境で美緒を大切にしてくれる男に巡り合う。
そして、その人と結婚する。
子供を作って幸せな家庭を築く。
闇に葬るしかなかった子の分まで、次に生まれてくる子供達には、精一杯の愛情を注ぎ育てる……
温泉ホテルの給料は、1人暮らしが出来るほど多くはない。
そして、1人で生きていくほど孤独に強いわけじゃない。
まず、家庭を持つこと。
人並みに幸せになるには、それしかない……
「あ……」
下を向いて歩く美緒の視界に、白い靴の爪先が入った。

