「つぐみー。」

入学式から数ヶ月経ち、新鮮な高校生活にもなれたある日、クラスの離れてしまった親友 愛菜香が教室に来た。

「愛菜香!…?どうしたの?」

愛菜香の顔は青ざめていた。クラスが離れてひさしぶりに会ったとはいえ、愛菜香が痩せてしまっていたのはすぐにわかった。

「ちょっと…いい?相談があって…。」

何かに怯えたように震える愛菜香の肩を支えて、私達は教室を出た。

「私の家に行こ。その方がいいよね?」

「うん、ありがと。」

学校から電車で乗り継いで、20分。私の家、“ル•ポラージュ”に着いた。私の家は祖母の代から続く洋菓子、和菓子専門を作るスイーツ店だ。結構人気があって、毎日品物の9割は売り切れてしまう。
 愛菜香の好きな“エリーヌの塩大福”を二つおぼんにのせ、大福にあう緑茶を淹れて部屋に持っていった。

「じゃっじゃじゃーん♪大福持ってきたよ!
たーべよっ!」

「やったね!サンキュっ。」

家につく頃には愛菜香の顔色も少し良くなっていた。大福の包装をとり、愛菜香は大福を頬張った。それをみて私も大福にかぶりつく。ふわっと柔らかく白い餅生地はほのかに甘くてしょっぱかった。中からはル•ポラージュ自家製のカスタードのしっとりとした甘さと凍らせたフルーツの酸味が合間ってとてもおいしかった。

「ほんとつぐみん家の大福美味しいね!他のスイーツも好きだけど、私これ好き!」

私もこのエリーヌの大福がお気に入りのひとつだった。エリーヌという名前はおばあちゃんの妹の名前で、エリーヌ・ル・ポラージュと言う。おばあちゃんはフランスと日本のハーフで日本人のおじいちゃんと結婚して日本に来た。この大福はエリーヌさんが日本に遊びに来た時に考えたスイーツで、発売したらすごく人気になったから店の看板商品のひとつになっている。

「エリーヌさんにもパティシエの才能あったのかもね。すごく美味しいもの。」

「エリーヌさんはフランスで日本菓子作ってたんだって。だから大福作ったのよ。」

「つぐみはエリーヌさんに会ったことあるの?」

「うん。」

「どんな人?きれいだった?」

「もう、相談あるんじゃなかったの?」

「いいじゃない。暗い話は後にしましょっ。ねっ?」

愛菜香は思ってること話すことが結構コロコロ変わる。そこが面白いのだが。

「美人だったよ。私が保育園の頃だったからあんまり覚えてないけど、髪が長くてね?とってもきれいな金髪だった。」

そう言いながら、私はエリーヌさんが来たときの記憶を遡っていた。
細くて白い体。
ベージュのワンピースに羽織った
紺のカーディガン。
笑ったとき頬に現れる弧を描くようなしわ。
細くて色素の薄い金髪…。

「エリーヌさんは今フランスにいるの?」

「ううん、あの後日本が気に入っちゃって
フランスに帰らずにこの近くのお屋敷を建ててそのまま住んじゃったの。」

「お屋敷?あぁ。源川公園の近く?」

「そんな遠くないわよ。すぐそこよ、ほら今古くなっちゃってるけど、賃貸物件になってる白いお屋敷。」

「え。」

「でもせっかく建てたのに、エリーヌさん…。」

「事故に遭って亡くなった…。」

「! 愛菜香知ってたの?」

顔を上げて愛菜香を見ると、教室で見た表情と同じ顔をしていた。青ざめて蒼白になり怯えた表情。

「エリーヌ…さんだったんだ。」

「え?」

「私が相談したいっていうのその事なの。」