暑い、ひたすらに暑い…。
遊べる最後の夏。高2の夏。カンカンと照りつける太陽の下、俺は何故か海の家でバイトをしている。
きっかけは1週間前、あのひとが帰ってきたところまで遡る。

― 1週間前 ―

「ただいまー」
『おかえりー』
いつも1人分の声のはずなのに2人分だった。誰か来てる。玄関には履き古したスニーカー。これはもしかして、と思いながらリビングに行く。

「よ!おっきくなったな、奏汰」

案の定おじさんが旅から帰ってきていた。

「久しぶり、おじさん。今までどこいってたの?」

「まぁ、それはいろいろな!」

はぐらかされた。これはきっと触れてはいけないことなんだなぁとかんじて
「ふぅん」と相槌をうつ。

「それでだな、奏汰。いきなりなんだけど、バイトしねぇか?」

「バイト?」

「おう。海の家だ」

「むりだよ、勉強あるし」

「バイト代はずむぞ?1日三千円で手をうとう。」

「....…。」

ー そしていまに至るわけである。
お金につられたんだ。海の家っていうからてっきり部屋の中でかと思ったら外でドリンクを売る仕事だった。

「ドリンクいかがですかー?冷えてますよぉぉ!」

同い年くらいのカップルがきてカルピスを2本かっていった。若干心が折れる。
照りつける太陽にだんだんと頭が下がってくる。頭がフラフラする。

「すみません」

お客さんの声に「はい。」と返事をしてフラフラと重たい頭をあげる。
その瞬間 ―

息を呑んだ。肩までの黒のミディアムヘア。二重の綺麗で大きな目。すらっと長い手足。白い肌がなんとも色っぽい。あまりの綺麗さにしばらく魅入ってしまった。

「あの、スポーツドリンクを…」

はっとして、正気になる。

「あ、はい。スポーツドリンクですね。何本でしょうか」

「あ、2本で」

2本。つまり誰かと一緒に来てるということだ。少し残念に思いながら渡す。

「200円です」
「はい。」
「はい、ちょうどお預かり致します。ありがとうございました!」
頭を下げて礼をすると、デコになにか冷たいものがあたった。
見上げると、それは彼女の買ったスポーツドリンクだった。
「ん!あげる」
「いやいやいや!もらえませんよ」
「熱中症になるよ。こんな暑いんだから。黙って受け取って!」
「だめですよ!」
「大人しくもらいなさいよ。あなたのためにかったのよ?」