ぼんやりと浮かんでくるのは、看病してくれるお父さんの姿。
『ほーら華火、長ネギを買ってきたぞ。これをまずまきなさい』
ああ、そう言えばネギを首にまくと良いって聞いたことがある。
熱にうかされて霞んだ視界で父の姿を探し、ふにゃんと微笑んだ。
『あと、長ネギは鼻にさしてもいいらしいぞ』
ん?鼻に、刺す?
お父さんが持ったビニール袋から、長ネギがもう1本出てくる。
『それとな、脇にはさんでも効くらしい』
更に長ネギが出てきた。
焦点の合わない瞳で、増えていく長ネギを見つめる。
『耳にかけてもいいらしい』
『穴を開けてリコーダーにするのもありだ』
『首にまくなら手首にもまきなさい』
『横向きにしてくわえるのも効くそうだ』
長ネギが1本、2本、3本、4本、と、夜にお世話になる羊よりもハイテンポで出てきた。
『………お父さん、それ、誰に言われて買ってきたの……?』
判断力が鈍った頭でどうにか聞くと、お父さんはさも当然とばかりに答える。
『八百屋のおじさん』
