いつもならすぐに返事があるのに、今日はない。

不思議に思ってもう一回ピンポンするも、依然として応答は返ってこず。

大家さん家の玄関の前で、私は一人首をかしげた。


「おかしいな、今晩は何も聞いてないぞ」


腕を組み大家さんとの今朝の会話を思いだしていると、私の腹の虫が不満気に鳴く。

やばい、お腹すいた。


『タバスコ紅茶の乱』が勃発してから、大家さんは本格的に私を台所に立たせてくれなくなった。

自分の家の台所にも、だ。

大家さんいわく、うちの台所は壁を挟んで大家さんの仕事部屋に面しているらしい。

ゆえに、包丁を使ってもコンロに火をつけてもばれてしまうのだ。


「それじゃあ私のご飯は!」

「そもそも華火自分で作る気だったんだ…」

「勿論ですとも!コンビニ弁当はべらぼうに高いですしね!今までは父が作ってくれていたのですが、それも無理ですので」

「………………じゃあ、晩ごはんだけうちに来ていいよ」


自分のアパートが私のうっかりミスで全焼するか、自ら飯を作るか。

大家さんの中でも究極の2択だったそうだ。