いや、あえて気づかないふりをしているのかい、我が親友よ。
なんともお行儀の悪いむっちゃんを見ながら「余計な事はするな」と念を送ってみる。
もちろん気付く様子もなく、彼女は悪戯っ子の顔のまま口を開いた。
「第一、生徒にさえ歳を誤魔化してんのに、彼氏なんてできても長続きせえへんて」
「……もう一度だけ言うわ。伊東、黙りなさい」
伊東さんから伊東になった。
宮川女史による制裁の巻き添えは食いたくないとばかりに、むっちゃんの周囲の席の人間は机ごと離れていく。
知ってか知らずか、学年一のKYと悪名名高い伊東睦月は、先生の起爆スイッチを容赦なく殴打した。
「そんなんやから、結婚できへんのや」
刹那、黒板の前から放たれたチョークは、教室のど真ん中を突っ切り後ろの壁にぶつかる。
一番中心の席のむっちゃんはそれを難なくよけ、心底愉快そうに先生を見ていた。
