「で、帰りたくないのはわかったから、はよ帰るで」
「帰りたくないのがわかったのに何故!」
「ウチが帰りたいからや」
「なるほど、流石むっちゃん」
私がなお動かずにいると、焦れたようにむっちゃんが扉にしなだれかかった。
「はよしてやー。今日カズの迎え行かなあかんねん」
カズというのは、むっちゃん家の一番下の弟だ。
むっちゃんそっくりの金髪と、黒目がちの大きな瞳が半端なく可愛い。
「………むっちゃん、今日泊めてくれたり」
「せんな」
すがるようにむっちゃんを見たが、笑顔120%で断られた。
交渉の余地もない。
一刀両断だ。
「冷たい……むっちゃんには隣人トラブルに苦しむ友達を救おうという気持ちはないの!?」
「ないな。そもそもうちには他人を泊めるような余裕ないの知っとるやろ」
