「華火、美和子は……」
「来ないでください!」
大家さんから逃げるように、私はリビングに入る。
……玄関の方にいけばよかったのに、失敗してしまった。
どうしてこんなに、うまくいかないの。
「…来ないでって言ったって、ここ俺ん家だしね」
困ったように大家さんが頭を掻く。
大家さんを困らせて、私はどうしたいのか。
彼だってさぞ迷惑だろう。
ただの隣人である女子高生にこんな深夜まで居られて、しかも理不尽にキレてるんだ。
その苛立ちさえ見せない大家さんの優しさが、今は辛い。
「まず1つ誤解してるみたいだけど」
大家さんが1歩、私に近付いた。
それに呼応するようにして、私の足が1歩下がる。
右の足の裏が何か細いものを踏んで、引っ張る感覚が伝わってきた。
