お粥を捨てようとしていた手から力を抜くと、大家さんも私から手を放した。
鍋をコンロの上に戻し、ゴミ袋を握る。
私のお粥の隣にある、もう一つの鍋。
美和子さんが作ったやつだろう。
私のと違って、ちゃんと、美味しいやつなんだろう。
悪いのは全部私なのに、それを責めない大家さんにも、キッパリ言った美和子さんにも、そして何より自分自身にどうしようもなく腹が立って、大家さんを押し退けて台所を出た。
「華火?」
廊下で腕を掴まれる。
振り払おうとしたのに、大家さんの体はびくともしない。
「……も…やだぁ……」
後から後から出てくる涙で、私の顔は酷いことになってると思う。
だけど、止まらない。
「何なんですか…彼女がいるくせに私にいつも晩ごはん作ってくれたりして!からかってるんですか?!」
醜い心が露わになっていく。
こんな事、言いたくなかったのに。
「彼女?」
「美和子さんです!あの人の香水の匂い、大家さんの寝室からしたの、知ってるんですから!」
渾身の力で腕を降り下ろすと、大家さんの手が外れて揺れた。
