「あー、いや、その」


私が首を傾げると、大家さんは言葉を探すように目を泳がせる。


「お粥ってのは、さ、病人食だから、健康な人は普通の物を食べた方がいいよ」


そう言うと大家さんは、近くにあった鞄を取り、中から千円札を出した。


「近くのコンビニにでも行って、何かご飯買ってきな。歩きは危ないから、俺の自転車使っていいよ」


差し出されたお金をすんなり受けとる訳にもいかず、慌てて首を振る。


「そんな、野口を頂くわけには……」

「いいから。お粥作ってくれたお礼」

「でも…」


くうぅ、とまたお腹が鳴った。

ね?と大家さんに笑いながら言われて、私は渋々お札を受け取る。


「…………ありがとうございます」


――――ああ、どうして。

どうしてこの人はこんなに優しいんだろう。

それが大人?

私が子供だから?


不確かで曖昧なこの感情に、名前をつけるならなんだろうか。


大家さんに薬と水を渡し、もう一度お礼を言って部屋を出た。

玄関にある、と言われた自転車の鍵をとり、大家さんの家を後にする。


―――――――大家さんご飯ですよ。


もしかしてこれが、『恋』っていうのかな。