弾む足取りを気づかれないように、大家さんのいる寝室に入る。

さっきは気が動転していて気が付かなかったけど、やっぱり仄かに煙草が香っていた。

大人っぽくて、甘い香り。

煙草の匂いと香水の匂いが混ざりあっていて、その威力にくらりとしたけれど、不思議と嫌な感じはしない。

薔薇だ。薫り立つ薔薇の香水。

大家さんの性格上香水なんてしないのに、どうしてこの部屋からはむせ返るような薔薇の香りがするんだろうか。


「大家さん、起きられますか?お粥作ったんで、食べられそうならお腹に何か入れといた方が良いですよ」


小皿を乗せたお盆を傍らに置いて、眉をひそめたまま寝ている大家さんに声をかける。


「大家さん……?」