「はい、これ」
「え.............」
別の部屋に入るなり着物を手渡された。
けど着物は着物でも、祭りで女性が着るような浴衣ではなく立派な袴だった。
「どうしたの?」
「これ、袴ですよね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「いえ、なんでもアリマセン.............」
あまりにも堂々としてるから女性物は?とは聞けない。かといって振袖を持ってこられても困る。着付けの受動的経験はあっても能動的経験はない。
そもそも、新選組の女人禁制は有名な規則だ。振り袖があるはずがない。
けどもう少し客への配慮があってもいいんじゃないの?仮にも男女入り乱れる時代劇スタジオだろ。
とりあえず受け取る。
「じゃあ僕は外にいるから着替え終わったら出てきて」
意外。いや居られちゃまずいよ。だが不本意ながら一応不審者扱いの私を見張らなくていいのか?
そんな疑問を読み取ったのか
「男の着替えるとこなんか見たくないよ」
とさっさと出て行く。
ちょっと待て、男?私男なの......?そうか男なのか.............
いやいや流れに流されるな紡恵!私は女、女なんだ。
体にピッタリ張り付いた制服を脱ぐと初めて自分がびしょ濡れだったことに気づく。
歴史の教科書の裏側にたしか襦袢とか書いてあったのを、さらにその上に目が覚めるような蒼の上着っぽいのを着て灰色の袴をはく。
一度も着たことはなかったが、そこは本番の臨機応変が強い私。腰エプロンだと思えば何とかなった。
るろうに○心のブルーバージョンの完成!
長い赤髪と十字傷、そして何より逆刃刀が欠落しているのが残念。
さあ、着替えは終わった。戸惑いはいくらか収まった。後はこれから始まるだろう尋問への心構えのみ。