マルメロ


「私も、天使になれるかしら――」


「ここは何だか気分が和らぐから、サユリも天使だと思うよ――」



「人がいいわね――居心地のいい場所に誘い込み、毒を与え続け、テルくんを死に至らしめる堕天使かもしれないわよ――私――」


不敵にはにかみ、人差し指の爪を舌で味わい、毒花の蜜壺へと誘導するサユリの瞳――。



「堕天使かぁ、悪くないね――サユリだったら、毒で死んでいいかも――」




「つれない人ね――」


少し気取った彼の返しに、ぷいっと表情を横に向け、照れ怒ったニュアンスが滲むサユリの声色――。





「なぁ、サユリ――」


「何――」


「また、ここに来ていいか――」




「いいわよ――」


そう言うと同時に、サユリは鍵を彼に手渡す――。



「この部室のスペアキーよ――」


「いいのか――」


「ええ、好きな時に、来たい時に、落ち込んだ時、嬉しい時――いつ来ても構わないわ――」



「いつも私がここにいるとは限らないけれど、その時も好きに使って施錠さえしてくれればいいわ――最も、私とテルくん以外、もうこの部室は使えないんだけれど――」