「靴、脱いでね――」
「あっ、すいません――」
彼は靴を脱ぎ、いつもここに来る様な動作でコタツに入った――。
「藤組の何年生ですか――」
秋桜組の淡いピンク、椿組の光沢のある白とは違う、胸元の薄紫色のリボンを確認して、彼が言った――。
「1年――」
「そうか同じ学年か――でも、あんまり見かけなかったな――」
「体、弱いから――」
彼の質問に、彼女は最も簡潔に答える――。
「オレは――」
「テルくんでしょ――」
涼しげな目元の彼女が、彼の呼び方を決め、言う――。
彼が始めに敬語を用いたのは、彼女が醸し出す雰囲気が、乾いた日光の匂いを揺らめかせているものではなく、仄かに湿気を帯びた月の甘い蜜の香りをこの古い教室に漂わせている様に見え、彼にとってはそれが大人びた彼女を形成していると、心が分析していたからだ――。
黒く艶やかな長い髪、白く華奢な指、憂いの視線――。
彼女を構成する全てが、同学年という「事実」を否定する方向に、彼の思いを加速させる――。
「私は、サユリ――」
「サユリ、でいいわよ――」



