マルメロ


可愛らしく手を振り、茜は去ってゆく――。


茜がいてくれて良かった――。


心底思うと同時に、言い知れぬ不安が、彼の全てを支配する――。



「明日から、どうしよう――」


「男って――弱いな――」






翌日――。


駅から、「言い知れぬ」視線が彼を刺す――。


否定派には、昨日の顛末は瞬く間に広がったのだろう――事実、こうして行動に移している――。


視線に耐え、何とか彼は教室に辿り着く――。


廊下側から数えて3列目、教壇のある最前列から5列目の自分の席に、教室の後部から入り、彼は深くため息をつき、腰を下ろす――。


最前列の廊下側から2列目には、既に茜が座っていて、1限目の授業の準備をしている――。


気を許す場面では、甲斐甲斐しく世話を焼くが、公の場では一線を引く――。



クラスの和が乱れる状況にならない限り、先の問題には干渉しません――でも、個人的にはちゃんと気にかけてますよ――。


今日はストレートお下げスタイルの茜の背中がそう語っていると彼は感じ、理解した――。



「むふふふっ――」


嫌な予感――。