熊と狩人が出会ったのは、十年前の夏だった。


その日、まだ二十歳だった狩人は、森の中で道に迷っていた。狩猟の経験が浅く、自然を甘く見ていたのだ。獲物を深追いしているうちに、自分がどこにいるのかわからなくっていた。


五日、さまよい歩いた。


それでも森から出ることはできなかった。暑さに苦しめられ、空腹と喉の渇きに体力をうばわれていった。


夕方、足に力が入らなくなって、狩人は地面にたおれた。


すると、それを待っていたかのように、周囲の茂みから、三匹の狼があらわれた。狩人が力尽きるまで、ずっと見張っていたようだ。


昨日から尾行されていたことには、気がついていたようだ。おかげで、昨晩はろくに眠ることができなかった。


「食わせてもらうよ」


リーダーらしき狼が、近寄ってきて言った。


「見逃してもらえないかな」


仰向けになったまま、狩人がつぶやくと、他の狼が、首を横にふった。


「だめだね。あんたら人間とはちがって、おれ達は毎日死ぬ気で食うものを探さないといけないんだ。獲物に情けをかける余裕なんてないんだよ」


「そうか、わかった」


狩人は、ズボンのポケットからナイフを抜いて、狼の顔を素早く切りつけた。


狼はあわててさがり、前足で傷ついた部分をなでた。