十年後、平穏に暮らしていた熊と狩人に突然不幸がおそってきた。


森で大きな火事が起こったのだ。


原因は、旅の人間が捨てた煙草の吸殻だった。


炎はいきおいよく草木に燃え広がり、森を焼きつくした。たくさんの鳥がいっせいに飛びたっていった。様々な動物が、甲高く鳴き、吠え、騒ぎながら逃げまわった。


火事はしばらくつづき、三日目に雨が降ってようやく消えた。


熊と狩人は、黒くこげた森を、ぼうぜんと見つめた。



狩人の家は川沿いにあるので、どうにか焼けずにすんだ。だが、よろこんでばかりはいられなかった。火事のせいで、森から動物がいなくなり、獲物がとれなくなったのだ。狩人の家は貧乏になった。妹が内職をはじめてくれたが、その稼ぎは雀の涙ほどしかなかった。


同じ理由で、熊もこまっていた。熊は主に魚を食べて生活をしていたのだが、川から魚がいなくなったのだ。いま川は動物の死骸でほとんど埋めつくされていた。火事の時、体に火のついた動物達が、次々と川に飛びこんで、そのまま息をひきとったのだ。血や腐汁によって水がひどく汚れ、魚達は川からいなくなった。動物の死骸を食べようにも、腐敗と焦げが激しくて、とても食えたものではなかった。熊は雌熊と共に、餓えに苦しんだ。


そんな熊と狩人をさらに苦しめるかのように、冬がやってきた。


去年までは、森の木々が冷たい風をせきとめてくれていた。しかし今年は、焼けくずれた木々の間から、容赦なく寒風が吹きつけてくる。