大捕り物から一夜明けても、ファイツはいまだに驚きを禁じ得なかった。

あのテフィオが、まさかこの国の皇子様だったなんて。

しかもテフィオリウス皇子といえば皇帝の嫡男、唯一の子。

このことをぜひ揶揄してやろうと、ファイツは昨晩から羊皮紙とにらめっこしている。

『おい、寝坊教師』

にするか、

『おい、寝坊皇子』

にするか。

やっと決まったのは朝が来る頃で、完成したらすぐに見せたくなり、ファイツはいつもより早く登校することにした。

―やっぱり寝坊教師がいいだろうな。

そんなことをちょっとわくわく考えながらおんぼろ教室に入ろうとすると、中からシルフィの声が聞こえた。

「リコくんは結局売られずに済んだけど…きっとすっきりしてないよね。実の親が考えを改めない限り」

「お前にできることはやったんだから、あとは本人たちに任せるしかないんじゃないのか」

テフィオもいるようだ。

この時なぜファイツが中に入ろうとせず、立ち聞きしてしまったのか、ファイツにもわからない。

ただ、テフィオの声が聞こえた時、羊皮紙の言葉を見た時の反応を思い描いてちょっとどきどきしてしまった。だから少し身構えるつもりで中に入らなかったのだろう。

その一瞬の判断で、どんなに運命が変わってしまうか、わかるはずもなく。